大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)277号 判決 1969年7月25日

上告人 泉原福雄

右訴訟代理人弁護士 田坂戒三

被上告人 尾木克己

右訴訟代理人弁護士 木村信一

被上告人補助参加人 若狭商事株式会社

右代表者代表取締役 若狭憲太郎

右訴訟代理人弁護士 西田信義

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田坂戒三の上告理由第一、第二について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして是認できる。また、当事者間において将来金銭その他の物を給付する債務を生ずることがあるべき場合、これを準消費貸借の目的とすることを約し得るのであって、その後該債務が生じたとき、その準消費貸借は当然にその効力を生ずるものと解すべきであり(昭和四〇年(オ)第二〇〇号同年一〇月七日第一小法廷判決、民集一九巻七号一七二三頁)、これと同旨の見解に立ち、原判決挙示の事実関係に基づき示された所論原審の判断は、正当として支持することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立って、適法になされた原審の事実認定、それに基づく正当な判断を非難するに帰し、採用することができない。

同第三について。

原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして是認でき、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 下村三郎 飯村義美 関根小郷)

上告代理人田坂戒三の上告理由

第一、上告人(控訴人)は原審において昭和四二年一一月二九日付準備書面により訴外泉原建材株式会社は昭和三八年一〇月二〇日頃には金融逼迫し倒産必至の状態に陥り同会社代表取締役泉原孝祐は被控訴人及訴外窪田満等と謀議の上他の債権者の差押へを防ぐため金四百五十万円の債務を仮装し内二百五十万円を被控訴人に、内二百万円を訴外杉都とする抵当権設定登記することを申合せ夫々登記申請をしたこと、右の内杉都に対する登記は仮装のことが暴露して登記に至らなかったこと、被控訴人に対しては右債権原因を証明する方法として訴外会社振出の手形(金額及支払期日空白)を振出し辻妻を合せて之を仮装したもので共謀虚偽の表示であり被担保債権は存在しない、仍て無効であると主張し、原判決は訴外泉原建材株式会社は有限会社尾木組振出の手形総額二、四九一、三六二円を金融機関より割引を受けていた、尾木組は右手形の見返りとしてこれに見合ふ手形の交付を受けていたが泉原建材株式会社は倒産を免れない状態に立至ったのでこれ等の手形は尾木組において決済しなければならなくなった右手形は尾木組の実際経営の担当者である被控訴人が代表取締役の承認を得ないで振出したもので被控訴人個人で決済せざるを得ない立場にあり右手形を被控訴人個人で決済しそれに伴い泉原建材株式会社振出しの前記手形を被控訴人が尾木組から譲受けることを予定して被控訴人の取得すべきその手形金債権を目的とする金額二百五十万円の準消費貸借契約を被控訴人と泉原建材株式会社間で締結し右債権を被担保債権として本訴抵当権が設定されたものであると認定し

前認定の準消費貸借契約の目的とされた債権は右契約の締結当時においては被控訴人に属していなかったのであるが、被控訴人においてこれを取得すべきことがほぼ確実視される事情にあったのであるからその取得を予定してあらかじめ準消費貸借契約を締結することは有効になし得るところと解すべきであり、そのような準消費貸借契約による債権を担保するため抵当権を設定することも可能であると解するのが相当である、本件抵当権設定契約においては被担保債権の発生原因として「昭和三八年一〇月三〇日金銭消費貸借」と記載されており必ずしも前認定の実体関係が正確に表示されているものとはいい難いけれどもその程度の不一致は右登記を無効とするものではないと解すべきであると説示された。

乍然民法五八七条、五八八条によれば消費貸借は要物契約であり之を受けた準消費貸借は既に要物的要素を充たしてる場合であってそれを消費貸借に改めんとするものである。

即ち債務者が消費貸借によらないで給付義務を負ふ者ある場合当事者が其物を以て消費貸借の目的と為すことを約するによりて成立するものであり契約の時点において債務者は給付義務者であることを要する、然るに本件にありては契約締結の時点である昭和三八年一〇月三〇日には目的とされた債権は被控訴人に属していなかったことは原判決自身も之を認めているところであり訴外泉原建材株式会社は被控訴人に対し何等の給付義務を負わないことが明である、準消費貸借は成立し得べくもない、原判決は準消費貸借に関する解釈を誤った違法に座し破棄を免れない。

第二、原判決は「被控訴人においてこれを取得すべきことがほぼ確実視される事情にあったのであるからその取得を予定してあらかじめ準消費貸借契約を締結することは有効になし得るところと解すべきであり」と説示した、この趣旨が現に給付義務は負わないが将来給付義務を負ふに至るであろうことを予定して為した準消費貸借も有効だと云ふにあるならば有限会社尾木組が発行し泉原建材株式会社が割引いた手形を被控訴人が受戻し現に所持することの主張立証を得且つ審理を尽したのでなくては判示の議論は理解できず且つ妥当しない、何となれば甲第一三号証の一、二、三の如く現に尚ほ泉原建材株式会社において買戻しつゝあるからである、このような観点からしても原判決は準消費貸借成立要件を誤解し適用をあやまった違法がある。

第三<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例